Masuk今日も晴天に恵まれて電車のエアコンは朝から大忙しだった。
空調の効いた客車の中で、いつもどおりの揺れを感じながら、僕は彼女が現れるのを待つ。 また以前の男が一緒だったらと不安な気持ちもあったけれど、いつもの駅から乗り込んできたとき彼女はひとりだった。 内心でホッと胸を撫で下ろしながら、彼女の動向をさりげなく視界に入れる。 今日は乗客が少ないらしく、ちょうど僕の斜め前に空席ができていた。おそらく彼女はそこに座るだろう。いいポジションだ――なんて考えていると、まるで覗きかストーカーのような気もしてくるが、そこはあえて気にしないことにする。 しかし、彼女はその前を通って――なぜか、そこに座ることなく――こちらに向かって歩いてきた。(なんだろう?)
とまどう僕をよそに、彼女は僕の真っ正面に立つと、そこで吊革を手にして口を開いた。
「かわいい彼女が居るのね」
「…………」はじめて耳にする彼女の声。それはイメージどおりに美しかったけど、いったい誰に向かって話しかけているんだろう?
「仲がいいのは結構なことだけど、公共の場であんなふうに抱き合うのはどうかと思うわ」
「……え?」僕はとまどいながら左右を確認した。左に座っているサラリーマンは居眠りをしている。右側の大学生はヘッドフォンをかけて、なにやら音楽を聴いているようだった。
つまり、彼女が話しかけているのは、どう考えても……。「でも意外ね。ホラー映画、好きだったんだ」
「ち、違っ」僕は思わず立ち上がろうとしたが、そのせいで彼女にぶつかり、その胸に顔を埋める。
「ご、ごめんっ」
今度は慌てて席に着いたけど、当然ながら彼女は不機嫌そうに顔を赤らめていた。そのまま冷たい声音で僕に詰問するように言ってくる。
「違うってなにが?」
「僕と月子は、ただの友達で……」 「月子っていうんだ。あなたってば、ただの友達を呼び捨てにしたり、抱き合ったりする人なの?」仲の良い女子を呼び捨てにする男子は居なくもないと思うけど、それよりも大事なのは後半だろう。
「いや、あれは抱き合ってたわけじゃなくて……」
月子は自分のせいにしろと言っていたけど……。
「僕が……怖くて彼女に抱きついていたんだ」
情けない思いを堪えながら、事実を告げた。
「…………」
反応がないので顔を上げる。
彼女は、ぽかんと呆気にとられたような顔をしていた。 それでも視線が合うと、また怒ったように言ってくる。「それが事実だとしても、恋人でもない男に抱きつかれてイヤな顔をしない女なんていないわ。少なくとも、向こうはあなたが好きなんでしょ」
「いや、彼女はいい奴だから我慢してくれていただけで、僕に惚れてるなんて絶対にあり得ないよ」 「なんで、そんなことが言い切れるのよ?」 「それは彼女が僕に……」君への告白を勧めてくるからだ――なんて、とても言えない。
言ったら告白したのと同じになってしまう。「だ、だいたい君こそ、電車の中で朝っぱらから男とベタベタしていたじゃないか」
誤魔化そうとして無理やり難癖を付けてしまう。
「はあ? なんの話よ?」
「つい先日の話さ。髪を染めたチャラそうなのと……」僕の言葉を聞いて彼女は真っ赤になった。
「あ、あれは、ただのクラスメイトよ! こっちは鬱陶しがってるのに、延々話しかけてきて迷惑なことこの上なかったわ」
そうなのか――と内心ホッとしたところで僕は車内の様子に気づいた。他の乗客がみんな僕らを見ている。
どうやら彼女もそれに気づいたらしく、耳まで真っ赤になったまま、そっぽを向いて空いてる席へと小走りに駆けていき、そこにちょこんと座った。 よっぽど恥ずかしかったのか、スクールバッグで顔を隠すようにしながら、それでもチラチラと僕のほうを覗き見てくる。 いったい、これは何事なのか……? なんだって彼女は急に、こんなふうに僕に絡んできたのだろう? たまたまアレを目撃したからって赤の他人のことを、こんなふうに気にするだろうか。 いや、待てよ……。もし、赤の他人でなかったとしたら。 その瞬間、ここ数日で起きていたことが僕の中で繋がり一本の線になった。 そうか、そういうことだったのか、月子。 君は……。 いやいや、あり得ない。いくら何でも非常識で突拍子が無さ過ぎる。 そう思って浮かび上がった答を一度は打ち消した僕だったが、考えれば考えるほど、これ以外には考えられない気がしてくる。 確かに世間の常識からは逸脱した答だけど世の中にはそういう愛のカタチだってあり得るのではないだろうか。 思い悩んだ末に僕は僕自身が導き出したこの答を静かに受け入れたのだった。 ◆「ごめん、月子。今までまったく気がつかなかった。まさか、君が彼女と恋仲だったなんて」
昇降口の前で見かけた月子をつかまえて、僕は朝の出来事を話した上で辿り着いた結論を告げた。
真相を暴かれたためか、月子はげっそりとした顔で僕を見る。「君の道ならぬ恋と、彼女が怒った理由を考えれば、すべてが一本の線に――」
「繋がるわけないでしょ! どれだけねじくれた線なのよ!」 「いや、だって辻褄が……」 「ああっ、もうっ、君ってバカなの!? いや、バカだわ! それも真性の!」 「ああ、そのとおり。三日森は結構なバカだ」割って入った声に振り向けば滝沢が面白がるような目で僕らを見ていた。
「最近、仲がいいよな、お前ら。やっぱりつき合ってるのか?」
「そうなの。でも、今別れたところ」月子は投げやりな調子でとんでもないことを言う。
「いやいやいやっ、とんでもない嘘を言わないでくれ!」
「はっはっはっ、フラれたな、三日森」 「だから僕と月子は、そんな関係じゃないって」 「月子ねえ……。そんなふうに君を呼び捨てにするのって、こいつぐらいだろ?」滝沢は月子に向かって言った。
「小学生の
目に見えないプレッシャーに堪えかねたかのように滝沢は敬称をつけた。もちろん、その間、月子は普通に笑っていただけなのだけど、習慣を変えるというのは、なかなか難しいようだ。
「ま、まあ、それはそうと、なんの話で盛り上がってたんだ?」
誤魔化すように滝沢が聞いてくる。
「三日森くんが、女同士の愛は不毛だからやめろって忠告してきたの」
「お、女同士!?」 「そう、そこは男子禁制の禁断の花園! 穢れを知らぬ乙女たちの愛は、あまりにも純粋にして美しい!」 「マ、マジで、そっち系の人だったのか!?」 「いや、違うけど」 「違うのかよ!?」 「違うのよ。あなたの友達が、まったくかすりもしない迷推理をしてくれただけでね」月子と滝沢が、それぞれにジト目を向けてくる。
「い、いや……結構自信あったんだけど」
頭をかいて誤魔化す僕を見ながら、月子と滝沢がそれぞれに勝手なことを言う。
「なんて言うか発想が卑猥よね」
「ムッツリだからな、三日森は。巨乳が好きだし」 「それは知ってる」 「つーか、お前らのほうが絶対仲いいよ! 息の合った連携で僕をいたぶるなっ」ふたりに向かって言い放つ。
そこに、もう一つ足音が近づいてきた。「朝から賑やかね、ルナ」
花屋敷さんだ。行儀良く鞄を両手で持ち、背筋をぴんと伸ばしている。本当のところは知らないけど、どことなく良家のお嬢さんといった雰囲気がある。
「おはよう、咲良。見てのとおり、男ふたりに言い寄られてるところよ」
「デタラメだ!」声を上げたのは僕ではなく滝沢だった。心なしか顔が赤い。
「大丈夫よ、ルナの嘘はわかりやすいから」
「そんなはずないんだけど、咲良にはなぜかいつも見抜かれるのよね」肩を竦めながら深々と溜息を吐く月子。
僕としてはもう少し月子に朝のできごとについての意見を聞きたかったのだけど、こうなってはあきらめるしかないだろう。どのみち予鈴も近い。 ひとまず放課後まで待って、それからまた話をしてみよう。そう考えながら僕は昇降口の扉を開けた。公園で爽子にすべてを話し終えたとき僕はまた泣いた。背中から回された彼女の両腕が僕をぎゅっと抱き留めてくれている。「爽子、僕は本当にバカな男だ」 「ええ」 「本当はずっと昔に月子に救われていたのに、それを忘れてよけいな面倒をかけていた」 「ええ、そのとおりね」 頷く爽子。だけど、その声はやさしい。「月子はずっと僕を覚えててくれたんだろうな。何度もヒントをくれていたのに僕はそれに気づかないままで……」 「いい人ね、彼女」 「うん」 頷いて月子の顔を思い浮かべる。 いつも明るく笑っていたけれど、本当は彼女こそがいちばん傷ついていた。それはきっと冷たい雨に打たれ続けるような凍えるような痛みだったはずだ。 それなのに彼女は自分の痛みをそっちのけにしてまで僕に手を差し伸べてくれた。「僕は……月子になにもしてやれてないのに……」 今さらながらに僕は悔やんだ。もっと月子に踏み込むべきだった。気になることがあったのに不安と向き合うことを怖れて僕はそれを怠ったんだ。「なのに、月子はこんな僕にありがとうって……」 「あなたの好意が月子さんを守ったのよ。もし彼女が自分で自分を傷つけるようなまねをすれば、あなたと交わした――わたしは君を裏切らない――という約束に反してしまうから」 爽子は僕の背中に顔を埋めるようにして囁いた。「だから、彼女は今もきっと……」 その呟きを聞いて僕は黙ったまま空を見上げる。 あの台風の日、月子は自分の命さえ投げだそうとしていた。 なのに僕との約束を守るためだけに、それをあきらめて生きることを選んだのか。 今も癒えぬ悲しみを抱えたまま、それでも僕を悲しませないためだけに幸せを探すと約束してくれたのか。 彼女はきっと、その約束を守りつづけるだろう。沢木南月子とは、そういう娘なのだから。「わたしは君を裏切らない――か。まるで魔法の言葉だな。彼女はその言葉で僕を救い、自分自身をも守っているんだ」 「それだけじゃないわ」 背中から回された
「なにも言わずに一日つき合って欲しいんだ」 僕の唐突なお願いを爽子は快く聞き入れてくれた。 その日も晴天で、鮮やかな青空の向こうには霞のような雲が薄くかかっている、山間の道を抜ける風は爽やかで散歩をするには最高の日和だ。 あの日、学校で盗人扱いされて親父にまで殴られた僕は、家を飛び出して線路沿いの道を無我夢中で走り続けた。 その道を僕は今、再び辿っている。 僕が冴えない顔をしていたためか、爽子は僕の手をぎゅっと握り続けている。実際、それは僕に勇気を与えてくれていた。 道すがら今日までのことをできる限り詳しく爽子に説明した。あまり他人に聞かせたくない失敗も、もしかしたら爽子が怒るかもしれないことも、包み隠さずにできるだけ正確に伝えたつもりだ。 爽子はそれを静かに最後まで聞いてくれた。 子供の頃、転校していく彼女と僕は永遠の友情を誓い合った。だけど、そのとき僕たちは指切りはしていない。それは今日、あらためて爽子にも確かめてみた。 僕は爽子と爽子以外の女の子の記憶を混同させてしまっていた。その相手が本当は誰だったのか。どんな約束を交わしたのか。それを僕は確かめなければならない。 爽子の手を引くように、あるいは爽子に手を引かれるように歩いていく。 山中を通って線路脇を走り続ける長い道だ。急な勾配はないが、ゆるやかに上がり続けるか、下り続けるかを、ひたすらに繰り返している。古びたアスファルトはところどころ舗装し直されているが、ひび割れが多く、白線も薄れて消えかけているところが多い。 いくら我を忘れていたとしても子供の脚で動ける距離などたかが知れている。そう思っていたのだけど、当時の僕は呆れるほどのガッツ?を見せたらしく、それらしい場所には、なかなか辿り着かなかった。 それでも山をいくつか越えたところで、ようやく開けた場所へと辿り着く。 低い山を切り開いて作られた住宅地だ。周囲にはいくつもの田園が連なるように広がっている。 見覚えがあるというほど記憶は鮮明ではなく、昼夜の違いによって印象も異なるだろうが、体力的に考えても、ここを抜けて次の町に行ったとは考えにくい。 とりあえず闇夜
我がクラス最後のホームルームはやたらと盛り上がった。担任の先生には悪いのだけど月子に会っておきたかった僕は、ただひたすら早く終わってくれとばかり念じていた。 しかし、実際に終わったのは月子のクラスよりも30分遅れで、校庭にはまだまだたくさんの生徒が残っていたが、そこに彼女の姿はなかった。 後輩の女子に呼び止められて一緒に写真をとせがまれたので、そのついでに聞いてみたところ、どうやら月子は告白しようとする男子達から逃れるために、猛ダッシュで校門を飛びだしていってしまったらしい。 なんとも情緒に欠ける卒業式だと呆れる一方で彼女らしいとも思う。振り向くことなく前向きに突っ走っていくのが彼女のスタイルなのだろう。 しばらくしてから僕はようやく自分などが記念撮影をせがまれたことに気づき、遅ればせながら感動しつつ、卒業の余韻に浸っていると滝沢と田中が現れて、そこからまた大いに盛り上がった。 けっきょく二時間近くも校庭で時間を潰したあとで、お互いに手を振ってそれぞれに帰路へと向かう。 滝沢と花屋敷さんの大学は関西圏で、田中は関東だけど僕の大学からは遠い。それでも、ふたりとは落ち着いた後で連絡先の交換を約束したし、いずれまた会えるだろう。 残念ながら爽子の学校とは卒業式の日程がズレているうえに、今日は用事があるらしくて夕方まで会うことはできない。今から彼女の町まで行ったところで時間を持て余すように思えたので、僕は取り立てて目的もなく商店街へと足を向けた。 何度となく利用した書店やCDショップ。ファーストフードのお店に、たまに利用していた弁当屋。見慣れた街並みも、これで見納めかと思うと寂しさが込み上げてくる。 ここは地元の町以上に僕にとって故郷も同然になっていたようだ。 いつかまた来たいとは思うが、その頃にはきっと、いろいろなものが変わってしまっているはずだ。それは寂しいことだけど僕が高校で変わったように、街も変わっていくのが自然なことだ。そう思えば納得できないことではない。 そして、僕はいつぞやの映画館の前で足を止めた。 かつてホラー映画のものだった看板は、今はよく知らない洋画のものに変わっている。 思い返せば、ここでの
「結局、これが報いってものか……。神よ……僕は本当に愚かだった」 二学期が始まって間もない頃、ミュージカルの舞台俳優のように田中は身振り手振りを交えて天を仰いだ。「名演だ。完全に田中葉太になりきっている」「いや、当人だから」 花屋敷さんが滝沢のボケに突っ込んだ。田中は、それを無視してチラリと僕を横目で見ると演技(?)を続ける。「ああっ、滝沢のみならず、三日森にも美人の彼女ができて僕だけが独り身だなんて……」 名優田中は片膝を突いて両手を広げ、まるで神を呪うかのように言った。 それを半眼で見つめながら僕は思ったことを口にする。「ほっとくと、このまま歌い出しそうだな」「美声に期待させてもらうわ」 つづいて言ったのは花屋敷さんだ。 田中はガックリとうなだれたあと、恨めしそうな目で僕を見てきた。「お前だけはずっと独り身のまま歳を取って、寂しい晩年を送るものだと心の底から信頼していたというのに、この裏切り者め」「いや、そんな信頼はいらないから、お前も早く彼女を作りなよ」「作ろうったって、そんなに簡単にできたら誰も苦労しないよ。だいたい、お前らの彼女に釣り合うような女なんて――」 そこで言葉を止めると田中は月子を見た。 彼女は少し離れたところで別のクラスメイトと楽しげに話し込んでいる。 田中の視線を追いかけたところで滝沢は言った。「無いな」「うん、あり得ない」 花屋敷さんがつづけると田中は渋い顔をしたが、結局なにも言い返さずにうなだれた。 夏休みの間中に田中と滝沢の関係は修復されていた。どうやら田中が、きちんと頭を下げてあやまったらしい。そうなれば気の良い滝沢が許さないわけもなく、仲直りは思った以上にすんなりいったようだ。 僕としても殴った責任があるので田中に頭を下げようとはしたけれど、それは当の田中に断られてしまった。「ダチが間違ったことをしたんだから、殴ってでも目を覚
デートの当日は実に夏らしい陽気だった。 ほとんどの民家で、朝から室外機が唸りをあげて、エアコンがその存在意義をいかんなく発揮していることだろう。 家を出て坂道を見下ろせば、あざやかな青空の下には輝く海原が広がっている。入道雲を背景にして白いヨットが行き交い、砂浜にはすでに大勢の海水浴客が繰り出していた。 今すぐにでも彼女を連れて、そこに向かって駈け出したいところだが、まずはその彼女――七未貴爽子を連れてこなければ話にならない。 僕は逸る鼓動を抑えながら駅へと急ぐ。 通い慣れた坂道は太陽の光が降り注ぎ、焼けたアスファルトで陽炎が揺れている。 朝からこの陽気だと昼の暑さはたいへんなものになりそうだ。でも、だからこそ海水浴には最適だと思える。 電車に乗って彼女が現れる駅までおよそ30分。僕はどんな言葉をかけようかと、そればかり考えていて、彼女が来ない可能性については、ほとんど気にしなかった。 そもそもが電話番号さえ知らない相手との曖昧な口約束だったけど、他ならぬ月子の推察だ。外れているとは思えない。 不思議なことに名前を思い出して以来、爽子との思い出は次から次へと甦ってきていた。僕は電車の窓から覗く流れる風景の中に、それを映し出しながら時を過ごす。 大人しくて、どちらかといえば引っ込み思案だった彼女が、今のような強気な美人になるまでに、どんな時を重ねたのだろうか。それが有意義な時間だったことを願わずにはいられないが、その変化の中でも変わらず僕との約束を大事にしてくれていたのなら、それはこの上なく嬉しいことだ。 僕は長らく自分が不幸なつもりでいた。だけど本当は逆かもしれない。 爽子のような女の子に、ずっと想われ続けていたのだとすれば、これほど恵まれた男も希なはずだ。(まったく、ダセえ話だ) なんとなく滝沢ふうに内心で呟いてみる。 でも自分の愚かさには本当に苦笑するしかない。今まで僕は過去のトラウマを相手に、ずっと独り相撲をとり続けていた。 でも、まだ間に合うはずだ。 目的の駅に列車が止まり、約束どおり8時前に待ち合わせのホームに降り立った僕は、足早に階段を駆
若いカップル、恋人同士――そんな言葉が当たり前に思い浮かんだけど、そのまま言っても月子は怒らないだろうか。 いや、怒るわけはないけど僕の方が恥ずかしい。 少し迷った末に僕は朴念仁っぽい答えを返すことにした。「仲のよいクラスメイトかな」 「それだとムチャクチャ鋭い人たちってことになるわね。実態を言い当ててる」 気分を害したふうもなく自然に笑うと、月子は砂浜に向かって歩き出した。 その手を僕が掴む。「三日森くん?」 「頼むから、君は海へは近づかないでくれ」 強ばった顔で告げると月子は困ったように笑った。「いや、今日は大丈夫よ。天気もいいし、変な声も聞こえない」 「ダメだ。原因だって判ってないんだし、もし万が一のことが君にあったら……」 「そんなこと言われても、まさかこれから先、一生海に近づかないってわけにはいかないでしょ?」 「できればそうして欲しいくらいだ」 「いや、さすがにそれは、わたしがイヤなんだけど……」 月子が笑みを引きつらせても僕は手を放さなかった。 そんな僕を見て月子は困ったように笑う。「わかったわ。それなら手を繋ぎましょう」 「え?」 「もしわたしが変になっても三日森くんが手を握っててくれれば大丈夫でしょ?」 「それはまあ……」 浜辺を見ると風が強い分、波はやや高いが危険を感じるほどではない。僕は渋々頷いて手を放した。 月子はそんな僕を見て、はにかむように微笑むと、そっと手を差しだしてくる。 その手の白さに今さらながらに気後れしながら、それでも僕は手を伸ばして、そっと握り返した。月子の手は海辺の風にさらされていたせいか思ったよりも冷たかったけど、やわらかくて心地良い感触に僕は秘かに胸をときめかした。「じゃあ、行くよ」 月子は僕の心境に気づいた様子もなく、なにげない足取りで波打ち際に近づいていく。「濡れるよ」 「じゃあ脱ぎましょう」 平然と言うと月子は手にして